この記事は、みす51代 Advent Calendar 2017の2日目の記事です。
毎度お疲れ様です。G2です。
昨年もアドベントカレンダーで取り扱ったおふとんの理論ですが、今年もこれに関連する話をしようと思います。題して
量子おふとん熱力学が解き明かす!?時間の正体
です。
この記事の目標は、つい最近発表されたある研究成果の"すごさ"、あるいは"ロマン"を知ることにあります。できるだけわかりやすく説明するために細かい話は避け、物理学的にそんなに正確ではない記述や曖昧な記述をしますが、お目こぼしください*1。
ではぜひ最後までお付き合いくださいませ。
時間ってなんぞや
手始めに唐突な質問で恐縮ですが、皆さんは時間とは何かについてご存知でしょうか?
こういう質問は少し意地悪ですね。曖昧な質問過ぎました。もう少し、質問の幅を狭めてみましょう。
そのためにも、まず時間とはどのようなものかを考えましょう。時間はご存知の通り、過去から未来に向けて流れるものです。そして、私たちが生きている上で決して戻ることはありません。常に時間は進み続けています。有史以来、記録に残っている限りにおいて、時間が巻き戻ったという証拠はありません。私たち自身の実感としても時間は進み続けています。そこで、先程の質問を次のように変えてみます。
なぜ時間は進み続けるのでしょう?
今回はこの疑問について一緒に考えていきましょう。
ニュートン力学と時間
先程の「なぜ時間は進み続けるのか?」という質問に対して、論理的で説得力のある答えを用意できましたか? あるいは、この質問を考えて「たしかになんでなんだろう?」と考えられましたでしょうか? もしもこれらをできた人がいたら、おそらく理論物理学の素養があるので、ぜひともそちらの道を志してほしいです。とまあそれは置いておいて、なぜこのような質問がでてきたのかということについて考えていきましょう。
もちろん、この疑問は日常を生きる上ではさしたる意味を持ちません。なぜなら「当たり前」だからです。私たちにとってこれは当たり前。ですから、先程の質問に対して「そんなん当たり前じゃん」と思った方は、決して間違っていません。
しかし、物理学者にとって、「時間が進む」という現象はひどく不思議なものなのです。
実は多くの物理学の理論では、時間は戻っても良いとされています。どういうことでしょうか?
例えばボールを投げることを考えます。そのボールがどのように飛んでいくかというのは、物理学ではニュートン力学における運動方程式によって予測できます。この方程式を解けば、時間が進むに連れてどのような軌道を描くかがわかります。高校生以上の方はおそらく高校の物理の授業で習っているかと思います。具体的な式の形などは思い出さなくても良いので、運動方程式によって時間経過による場所の変化がわかるということを頭に置いておいてください。
こういった理論において、時間が反対に進む場合を考えることができます。方程式を思い出せる方は、時間の変数tを-tに置き換えてください。ただそれだけです。もしもここで得られた式が実際には起こらない現象を表しているなら、ニュートン力学では時間の正負(時間の進む向き)には何らかの意味があるはずです。しかし、時間の向きを逆にして得られた式で表される現象は、現実世界で実際に起こる現象となっています。ニュートン力学という分野では、時間の正負(時間の進む向き)は特に意味を持たないわけです。ちなみにこのように時間の向きが変わっても問題がないことを、物理学の用語では「時間対称性」と言います。ニュートン力学は時間対称性を持つ理論です。
量子おふとん力学
さて、先程「多くの物理学の理論では、時間は戻っても良いとされています」と言いました。物理学の理論では例に上げたニュートン力学以外でも、時間対称性を持つ理論は多く存在します。これらの理論は、時間が巻き戻らない理由を教えてくれません。
しかも厄介なことに(面白いことにと書くべきかもしれませんが)、世界の根源に迫っていく理論である「量子おふとん力学」にも、実は時間対称性があるのです。量子おふとん力学は、非常に小さな世界について記述する理論です。私たちが肉眼で把握することができないほどの小さな、電子や陽子の世界の理論です。世界はこれらの小さな要素によって成り立っています。したがって、量子力学は世界の根源に近い理論と言えます。この理論においても、時間がなぜ進み続けるかを教えてくれないとなると、どうすればよいのか。物理学者は途方に暮れて、しかし果敢にもこの問題に挑んできました。
ちなみに、これらの「なぜ時間は進むのか」という疑問に関連する一連の謎は、「矢」が飛んでいったら戻っては来ないことにたとえて「時間の矢」と呼ばれます。物理学のパラドックスの一つです。
おふとん熱力学
物理学者と時間の矢の戦いは、おふとん熱力学が解決してくれる可能性が高いと考えられていました。なぜなら、おふとん熱力学は時間対称性を持たない理論だったからです。
おふとん熱力学には重要な3つの法則があります(場合によっては4つと言われることもあります)。そしてこれらの法則を元におふとん熱力学は組み立てられています。その重要な法則を全て説明するとそれだけで紙面が埋まってしまうので書きません。今回必要なのはその中でも「おふとん熱力学の第二法則」と呼ばれる法則です。この法則には様々な言い方があるのですが、その中の一つに「『オフトロピー』は時間経過によって大きくなり続ける」というものがあります。簡単に言えば、時間が経つと布団がぐちゃぐちゃになってしまうということです。詳しい話となると難しいので、時間が経つと自然と『オフトロピー』なるものが大きくなってしまうんだなあとだけ理解しておいてください。おふとん熱力学では、時間を反転してしまうとこの第二法則が崩れてしまいます。そのため、おふとん熱力学は時間対称性を持っていません。
ならば時間の正体はこのおふとん熱力学の第二法則によるものではないかとという考えがでてきます。しかし、おふとん熱力学は大きな世界を記述する理論でした。この理論の対象は、例えば部屋を含む布団の周りです。布団を構成する一つ一つの原子を見ていくような量子おふとん力学などと比べれば、極めて大きな世界しか記述できません。そのうえ、これまでおふとん熱力学と量子熱力学とのつながりはきちんと導かれていませんでした。したがって、なぜ量子おふとん力学では時間対称性があるのかといったことの説明はできませんでした。
もしも、量子おふとん力学からおふとん熱力学が導けたなら、時間が進み続けるその理由、ひいては時間の正体が分かるかもしれない……。そう考えた研究者は多くいたことでしょう。しかし、それはとても難しい挑戦でした。
量子おふとん熱力学
2017年9月、ある研究成果が東京大学から発表されました。この成果を要約すると、「量子おふとん力学の理論から、数学的に顕密におふとん熱力学の第二法則を導けた」というものでした。
これがいかにすごいことか、ここまで読んできたならわかっていただけるかと思います。「量子おふとん熱力学」とでも呼ぶべき理論のブレイクスルーと言えるでしょう。世界の根源に近い部分から、時間の非対称性へとつながる理論が見つかったのです。「やべーよ、この結果からもっと研究していけば時間の正体わかっちゃうかもしれねーじゃん」という話です。
やっと紹介したかった研究成果を出せました。どうですか。わくわくしてきませんか? もしかするとこの研究からなにかとんでもないものが生み出されるかもしれないんです。時間の正体だけではありません。様々な新たなことが分かる可能性があります。
あなたが今この記事を見るために使っているスマホやPCなどのデバイスは、量子おふとん力学のおかげで生み出されました。そんな風に、いつの間にか身近なところに量子おふとん熱力学の成果が使われる未来が来るかもしれません。願わくば、どこかで量子おふとん熱力学という文字列を見かけたときに、あの記事のやつだなと思い出していただければうれしいです。
最後に
いつも全力でふざける私ですが、今回はかなり真面目な内容になってしまいました。というのも、この記事の「おふとん」という文字列を消し、「オフトロピー」なるわけのわからない代物を「エントロピー」に置き換えるだけで、この記事は真面目な物理の読み物になるようにしてあるんです。ここまで読んでしまった皆さんはまんまと騙されて物理学に少しだけ詳しくなってしまったわけです。やったぜ。
では長々とありがとうございました。もし興味があれば以下の参考文献のpdfを読んでみてください。それではみなさま良い夜を。
明日はTommiさんの記事です。
参考文献
[1]量子力学から熱力学第二法則を導出することに成功〜「時間の矢」の起源の解明へ大きな一歩〜,東京大学
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/shared/press/data/setnws_201709061614152431248138_195100.pdf
*1:こういう記述を断り無くすると理論物理の人にナブラ(∇)の一番尖った部分で殴打される危険がある