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もひょもひょしたブログ

タイトルから察してあげてください

伊藤計劃のハーモニーを読んだ

ネタバレ だめ。ぜったい。

 伊藤計劃のハーモニーを読んで、簡単な感想をツイートしようとしたら「ネタバレの壁」にぶつかった。ネタバレの壁は、神聖で、そのくせとても脆いものなので、自分がそれを壊したという責任を負わないためにも、慎重に避けなければならない。


 けれども、 「ネタバレをちょっと含んだ感想を言いたい!」となるときは、わりとよくある。そんなときは穴を掘ってそこに向かって叫べば良いし、このご時世においては、こんな風に久しぶりにブログのアカウントにログインすれば良いだろう。そう考えてみれば、王様のロバ耳を見た召使が――あるいはイソップ的には床屋が――言いたいことを言うために穴を掘ったことと比べれば、秘密の暴露が指先で完結できてしまう現代人がいかに不健康かということも納得ができようものなのだけど、今でさえこうなのだから、このまま科学が発展すれば指先どころの話ではなくなりそうではある。

 そんな科学が発展した先の世界を、伊藤計劃はハーモニーで描いている。じゃあハーモニーの世界では人々は不健康なのかというと、そうではない。むしろ、あらゆる時代の人々よりも健康的に見える。少なくとも、身体的には最高に健康だと言えよう。なにせハーモニーの世界は、大災禍(ザ・メイルストロム)と呼ばれる世界規模の放射能汚染がきっかけで、医療だとか、福祉だとか、共生だとかの方面に特化していった世界なのだ。

 ところで僕は別に書評だとかあらすじを言いに来たわけではなくて、このどうしようもなく素敵な“ユートピア”について簡単な感想を書きたかっただけなので、本の内容を知りたければ自分で読んでみるのをおすすめしたい。

妄想と感想

 ここから先にはネタバレを含む文章があるので気をつけてほしい。

 さて、肝心の感想は、ここまでの前置きと比べて極めて短い。ただ、負けた、という一言に尽きる。もちろん、読んでいて感じた楽しさ、胸の苦しさ、緊張、興奮などは、僕の心をあの瞬間においてどこまでも虜にしたし、そういう意味での面白さは非常に大きかった。ただ、そのあたりの感想はみんな読めば感じるだろうし、そう感じた人がどこかに書きとめてくれているはずなので、僕は僕なりの感想を述べたい。伊藤計劃の発想に、負けた、と僕は思ったのだ。

 僕はかねてから、人類にとっての完全な平和は、人類すべての徹底した洗脳か、もしくは人類の絶滅でしかありえないと考えていた。平和の定義はとても曖昧なものだけど、この場合の完全な平和は、「すべての人が平和であることに疑いを持たない世界」と考えてほしい。賛否両論は置いておいて、ひとまずはそんな世界が存在すると仮定しよう。

 すべての人が平和と感じている世界において、例外はあってはならない。その平和に疑問を持つ者がいてはならない。もしも思考の自由があるならば、誰かが疑問に思うはずだ。その疑問を抱くのは、冷たい瞳の哲学者でも血気盛んな若者でも、スーツを着込んだサラリーマンでも良い。思考に自由がある限り、疑問というものは無限に生まれてきてしまうのだから、平和は疑われなければならない。そうならないためには、人の思考に制限をかける必要がある。つまりは、徹底的に洗脳しなければ、あるいは疑問を抱けないように脳を弄くらなければ、その平和は訪れないことになる。

 人類すべてが平和を疑わないということは、平和が人類に疑われない状況を作れば良い。人類がいなければ、逆説的に人類に平和が疑われることはありえない。そういう意味で、人類の絶滅もまた、人類にとっての完全な平和たり得るだろう。

 ハーモニーの世界では、その完全な平和に近い秩序が構築されつつあった。というより、最終的に構築された。全人類的にではないが、大方の人類は完璧な調和に組み込まれた――意識の消滅という形で。こんなにも恐ろしく、そしてハッとさせられることが他にあるだろうか。調和を取るために、非合理的な判断は必要なく、その非合理性こそがある意味で人間の意識であったのだ。人間が完全であるとき、そこに意識なんてものは必要なかったのだ。完璧な洗脳は、完全に平和な世界は、意識の消滅に繋がることがあると、示唆されてしまったのだ。こんなことを思いついてしまう伊藤計劃は、なんてすごいんだと、心の底から感服した。

 僕は今まで、上に述べたような妄想を、真面目に議論できたことがなかった。それも当たり前だろう。こんな荒唐無稽な極論、話し合う余地のない、どうでも良いことなのだから。真摯に取り合ってくれた人とも、結局同じ土俵に立つことはできなかった。それにも関わらず、伊藤計劃は、同じ土俵か、あるいはもっと高い次元に存在する土俵から、僕のこの独りよがりの妄想よりも、遥かに高度な思索を見せつけてくれた。しかもそれを、大衆に受け入れられる作品へと昇華した。だから僕は、どうしようもなく、負けた、と感じたのだ。
 



 あ〜勢いに任せてそれっぽい文章を書いてしまった。おわりですおわり。僕はもっとゆるふわした人間なので、こんな過激なこと本気で思ってるわけじゃないですよ。

 ハーモニー面白いのでみんな読んでくださいね。読みやすいから高校生大学生にもおすすめです。まあこの文章はネタバレを含んでいるし、ここまで読んでくれた人の多くは読了済みだとは思うけど。

 それではみなさま良い夜を!